乳癌診療における放射線治療の役割

乳癌の治療は、病期や患者の個別の状態に合わせて多岐にわたります。その中でも放射線治療は、温存術後、乳房切除術後、また再発乳癌や転移性病変に対して重要な役割を果たします。今回は、これらの治療状況における放射線治療の役割について詳しく説明します。

当院は2017年9月に現在の新クリニックに移転した際に、放射線治療装置を導入しました。放射線治療は、乳癌診療に無くてはならない治療のツールの一つです。今まで阪大の放射線治療科から非常勤医師が派遣されていましたが、本年4月からは常勤の放射線治療専門医の高原 圭子医師が着任して、当院の放射線治療に当たっています。乳癌の放射線治療についてどのようなものかを以下に示します。

 

  1. 温存術後の放射線治療

乳癌の初期段階では、乳房を温存する手術(乳房温存手術)が選択されることがあります。この手術の後、放射線治療が行われることが一般的です。放射線治療の役割は以下の通りです。再発リスクの低減: 乳房温存手術では、がん細胞が残存している可能性があるため、その再発リスクを低減させるのが放射線治療の主な目的です。日本放射線治療学会からのガイドラインにより、50歳未満の患者さんや腫瘍の端の正常組織が少ない患者さんなどにはブースト照射を施行しています。また高原医師が着任したことにより、寡分割照射(1回照射する線量を多くして回数を少なくする照射)で治療することが可能になりました。

  1. 乳房切除術後の放射線治療

一方、一部の患者には乳房切除術(乳房全摘出術)が必要な場合があります。この手術後も放射線治療が行われることがあります。放射線治療の役割は再発リスクの低減: 乳房切除手術は乳癌の根絶を目指すものであり、放射線治療は再発のリスクをさらに低減します。再発リスクの高い患者さんには乳房切除術後に胸壁に照射をします。リンパ節転移のあった患者さんには鎖骨上窩リンパ節領域にも照射をします。

  1. 再発乳癌に対する放射線治療

乳癌は再発する可能性がある疾患です。再発が見られる場合、放射線治療は再び有用です。放射線治療の役割は以下の通りです。

局所コントロール: 再発が局所に限定している場合、放射線治療は再発部位に焦点を当ててがん細胞の増殖を抑制します。最近では照射部位をより精密に照射し、周囲組織に放射線の障害を少なくするIMRT(強度変調放射線治療)による治療法で行われることがあります。IMRTという照射法は、放射線の照射中に、照射野内の放射線の強さに強弱をつけ、腫瘍に対して集中的に照射を行うことができる方法です。IMRTは常勤の放射線治療医が2名以上必要でまた放射線治療装置の専用の装置が必要となります。当院ではIMRTを行う事ができないので関連施設に依頼しています。

  1. 転移性疾患への放射線治療

乳癌は他の臓器への転移が起こることがあります。骨転移や脳転移などに対しても放射線治療が行われます。骨転移への治療: 乳癌が骨に転移した場合、放射線治療は骨痛の軽減や骨の強化に役立ちます。脳転移への治療: 乳癌が脳に転移した場合、放射線治療は脳腫瘍の制御や症状の緩和に貢献します。これらの治療にも、より精度の高いIMRTや定位放射線治療(ピンポイント照射)による治療が行われます。

  1. まとめ

放射線治療は、乳癌治療において初期治療から再発治療まで重要な役割を果たします。温存術後や、乳房切除術後には再発リスクの低減を目的に行われ、再発乳癌に対しても局所コントロールとして効果的です。さらに、転移性疾患への放射線治療は症状の軽減や生活の質の向上に寄与します。放射線治療は、乳癌患者の生存と生活の質を向上させる重要なツールの一つであり、その有益性を最大限に活用すべきと考えます。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医