乳癌診療における病理検査の重要性

乳癌診療において正確な診断と適切な治療計画の策定は極めて重要です。乳癌の画像診断と並んで乳癌の病理検査は、診断の確立から治療法の選択、予後の評価までの多くの段階で不可欠な役割を果たしています。今月のブログでは、乳癌診療における病理検査の重要性について詳しく述べます。

 

初期診断と病期の評価:

乳癌の初期診断は、画像検査と病理検査から始まります。乳房の腫瘍が悪性かどうか、細い針で細胞を吸い取る細胞診検査や、組織を生検針で採取する針生検、もう少し太い針で組織を吸引しながらより多くの組織を採取する VAB 検査があります。病理検査では腫瘍組織の悪性か良性かの判定を行い、またリンパ節転移の有無を細胞診で検査を行います。これにより、がんのステージ(病期)が確定し、適切な治療法を選択するための基盤が築かれます。

 

治療法の選択:

病理検査は、乳がんの種類や腫瘍の特性を正確に特定するのに役立ちます。乳癌はホルモン受容体陽性、HER2陽性、トリプルネガティブなどさまざまな種類(サブタイプ)があり、それぞれに適した治療法が異なります。針生検で検査を受けた標本は免疫染色を行い、乳癌のサブタイプを調べます。そのサブタイプの決定は、患者に最適な治療法を提供する上で極めて重要です。

 

手術計画:

乳癌の手術計画においても、画像検査と並んで病理検査は不可欠です。腫瘍の大きさや位置、周辺組織への浸潤の程度などを評価し、手術の範囲を決定します。また腫瘍の近くに嬢結節(じょうけっせつ)と呼ばれる仲間の腫瘍が存在することがあります。これらの有無を画像検査と細胞診、針生検で検査をすることにより、乳房温存手術が可能かどうか等の手術術式の選択肢を検討する際に重要です。

 

手術:

手術の際には、センチネルリンパ節生検のリンパ節の術中迅速組織診で転移の有無を検査します。さらに温存手術では、残した乳腺の断端に癌が残存していないことを確認するために行う術中迅速組織診検査はきわめて重要です。乳癌手術において術中迅速組織診による病理検査が無いと地図を持たずに航海にいくようなものだと思います。

 

治療効果の評価:

病理検査や手術で採取した乳癌組織やリンパ節の病理検査は、手術後にどのような治療を行うかを決定するために非常に重要な検査です。

 

当院での病理検査:

総合病院には病理検査室があり、病理の専門医も常勤で在住しますが当院のような乳腺専門の診療所では通常病理診断医は在籍していません。

2017年9月にクリニックに移転した際に病理検査室を設立し、常勤医師と病理の検査技師を配置し、院内で病理検査ができるようになっています。移転前は近隣の病院の病理検査室に検査を依頼していましたが、乳癌の病理検査は手順が煩雑で、当院の手術数も増加したことから、近隣の病院で受け入れていただくことが困難となったために、新クリニックへの移転を機会に病理検査室を設立いたしました。当院は常勤の病理医師1名、病理検査技師(細胞検査士)3名で病理検査を行っています。当院の病理検査の特徴は手術前の針生検の病理検査、手術中に行う術中迅速組織診、手術後の病理検査もすべてが非常に早くて正確であることです。針生検の結果は3日間で免疫染色の結果もすべて判明します。手術中の術中迅速組織診でリンパ節は約10分、乳腺の断端なら検査の数によっても異なりますが、15分くらいで結果が返ってきます。手術後の病理検査結果も温存手術、乳房切除術ともに手術後1週間以内に結果が判明します。以前他院に術中迅速組織診を依頼していた際には、病院によっては1カ所の断端でも45分位かかり、その間結果を待たないといけないことがありました。また術中迅速組織診も温存手術でも全周検査をしてもらえるので、手術を行う外科医や患者さんにとっても安心できます。当院に勤務している医師の中で、前任の大学病院でも時間がかかるので術中迅速組織診は行わないところもあると言っていました。また近隣の総合病院でも温存手術の断端は乳頭側の1カ所のみと言う施設も複数あります。そのようなことから当院の病理検査室は、非常に高いレベルの検査をしていると言えます。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医