オンコタイプDXの保険収載について

乳腺科医が待ち望んでいたオンコタイプDXが、2023年9月1日から保険収載(健康保険を使って検査ができる)されることになりました。オンコタイプDXは多遺伝子アッセイと呼ばれ、乳癌の腫瘍組織の21個の遺伝子を検査することによって、予後予測や化学療法、ホルモン療法の効果を予測するものです。対象はホルモンレセプター陽性、Her-2陰性、リンパ節転移陰性または1-3個までの浸潤癌の患者さんです。アメリカでは、2004年から手術後の補助療法(手術後に再発予防の治療)を決定するのに標準的に用いられてきた検査法です。21個の遺伝子を調べ、各遺伝子の発現状況から、0から100までの数字で表される再発スコア結果を算出します。再発スコア結果は、手術後にどの程度再発しやすいかの予測とあわせて、術後薬物療法を検討する際に、「ホルモン療法」に「化学療法」を追加するかどうかの意思決定の助けになる情報を提供します。

現在世界中で 100 万人以上の患者さんがこの検査の恩恵を受けており、日本乳癌学会、欧州腫瘍学会(ESMO)、ザンクトガレン国際乳癌会議、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、米国国立包括癌ネットワーク(NCCN)などの主要な乳癌治療ガイドラインに取り入れられています。アメリカのジェノミックヘルス社が開発した遺伝子検査「Oncotype DX」は乳癌だけでなく、大腸癌、前立腺癌にも応用されています。ジェノミックヘルス社は、アメリカ西海岸のサンフランシスコから南に、車で30分くらいのシリコンバレーにあります。私も2010年頃に学会に参加した際に、ジェノミックヘルス社を見学したことがありました。世界中から腫瘍のサンプルがたくさん届くといっていました。

日本国内では、2007年から自由診療の枠組みで提供されています。ですが保険適用外では検査費用も40万円超と高額のため、この検査が適応の患者さんと相談し、検査を受けませんかと尋ねても、価格から二の足を踏む患者さんが多かったです。この検査の適応となる患者さんは、浸潤性乳癌の患者さんの半分以上を占める、早期・ホルモン受容体陽性・HER2陰性・リンパ節転移陰性(又はリンパ節転移1〜3個陽性)の患者さんのうち、腫瘍が大きいとか、ホルモンレセプターの発現が弱いとか、増殖のスピードが速い、リンパ節転移があるといった、化学療法をした方が良いのではと迷う患者さんです。2018年、アメリカの臨床腫瘍学会で重要な検査結果であるTAILORx試験の主要解析結果が発表され、同時に世界的な医学雑誌の「ニューイングランドジャーナルオブメディシン」にも掲載されました。その結果、オンコタイプDX乳がん再発スコア検査は、リンパ節転移陰性の乳癌患者さんのうち実質的に化学療法の恩恵を受けない大半(約80%)の患者さん、および、化学療法が必要な少数の患者さんを特定することが判明しました。この検査の特徴は癌組織の遺伝子検査をすることにより、治療の選択肢を個別化することです。保険適応後の価格は435,000円と決定され、自費診療と同じ程度の価格になりました。3割負担の患者さんはおよそ13万円位になると考えられます。保険適応になっても比較的高額な検査と言えます。この検査の一番の目的は、化学療法が不要な患者さんを見つけ出すことだと考えられています。化学療法を受けるべきかどうかを迷う患者さんにとっては、重要な検査だと思います。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医