CDK4/6阻害薬後の治療戦略におけるpostMONARCH試験の重要性
ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳がん(HR+/HER2-)に対する第1選択治療として、CDK4/6阻害薬(イブランス、ベージニオ、リボシクリブ本邦未承認)とアロマターゼ阻害薬の併用が、再発後の治療として第1選択となっています。しかし、CDK4/6阻害剤の効果が無くなったときに、2次治療については決まった薬剤がありませんでした。
今回、米国の癌専門雑誌のジャーナルオブクリニカルオンロジーの25年3月20日号に報告されたpostMONARCH試験は、CDK4/6阻害剤に効果が無くなった症例に、2次治療にCDK4/6阻害剤を使用する効果があるかとの命題に答えるものです。
本試験では、CDK4/6阻害剤+アロマターゼインヒビターの治療歴のあるHR+/HER2-転移・再発乳がん患者368例を対象に、ベージニオ+フルベストラント(抗エストロゲン剤注射薬)群とプラセボ+フルベストラント群に1:1に二重盲検でランダム化されました。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、主治医の判定では中央値で**6.0カ月 vs 5.3カ月(HR 0.73, 95%CI 0.57–0.95, p=0.017)**と、統計的有意差が示されましたが、差はわずかでした。これに対して、盲検法で行われた中央判定では、PFS中央値が**12.9カ月 vs 5.6カ月(HR 0.55, p<0.001)**と差が拡大していました。この効果は遺伝子検査結果でのESR1やPIK3CA変異の有無に関わらず、治療効果はほぼ一貫しており、バイオマーカーに関わらず、有用性が示唆されました。
客観的奏効率(ORR)も、アベマシクリブ群で有意に高く(17% vs 7%)、有効性は明確でした。副作用は従来のベージニオと同様で、下痢・好中球減少・倦怠感などが見られたものの、新たな安全性上の懸念は報告されませんでした。
注目すべきは、CDK4/6阻害薬の再投与に対する初のフェーズⅢの大規模臨床試験である点です。これまでの臨床試験(フェーズII)などと異なり、プラセボ対照・盲検という厳格なデザインを採用し、臨床的信頼性が高いといえます。特に骨転移のみの症例や内臓転移のない群では、PFSの延長が顕著であり臨床的意義も十分にあると考えられます。
postMONARCH試験は、CDK4/6阻害薬による1次治療後も、アベマシクリブを用いたCDK4/6阻害剤に逐次投与が治療選択肢となり得る可能性を示した点で、今後の治療戦略の構築に寄与する重要な一歩といえるでしょう。