マンモグラフィ検診に乳腺エコーを追加するメリット

当院では医局会が毎週火曜日に開催され、その際に抄読会と呼ばれる勉強会があります。最近の英語の論文で、当院の診療に関係する論文を医師の皆さんに紹介する会です。

2023年6月13日が私の当番で、2023年5月1日のJournal of Clinical Oncologyに掲載された、乳がん検診でトモシンセシスを使用した3Dマンモグラフィ検診で、乳房の濃度がきわめて高濃度や、不均一高濃度の受診者を対象として超音波検査を追加して、乳がんの発見率がどれくらい増加するかを調べた臨床試験の論文を読みました。乳房の濃度が濃い(マンモグラフィでは白く写る、乳癌が発見しにくいタイプの乳房)受診者が対象で、アメリカのペンシルベニア州の大学病院を含む3施設で、6266人の受診者を3年間に渡り全体では延べ17,552人を調べた研究です。1年目の癌発見率は、3Dマンモグラフィのみで0.50%に癌が発見されました。エコーを追加すると発見率は0.63%と、0.13%癌発見率が上がりました。2年目と3年目を合わせた検査では、3Dマンモグラフィのみでは0.49%でエコーを追加すると、0.59%に上昇しました。エコー検査を追加することにより、有意に乳癌の発見が増加しました。しかしながら欠点もあり、要精密検査となった受診者はエコーを追加することにより増加しています。3Dマンモグラフィ単独からエコーを追加することで要精査率は5.9%から9.7%に増加しました。

日本でも同様に研究が行われました。マンモグラフィ検診で超音波検査を加えることの有効性を見る大規模臨床試験が行われました。J-STARTと呼ばれる試験で、2007年から2011年までに40歳台の女性 約7万6千人の参加がありました。この研究では、マンモグラフィ検査に超音波を併用する検診と、マンモグラフィ単独検診を実施して両群の間で、検診の精度(確かさ)、利益、不利益および有効性を明らかにし、死亡率減少効果の科学的根拠を示す事を目的として、試験がされました。東北大学の大内先生が、主任研究者として日本全国で多数の検診施設が参加して行われました。

2016年1月に初回の報告がされ、マンモグラフィ単独群では、約3万6千人中0.33%、117人に乳癌発見されたのに対して、超音波を追加した群では、約3万6千人中184人0.50%の乳癌が発見されました。発見率はおよそ1.5倍に増加しました。問題点としては米国での試験と同様に要精査率がマンモグラフィ単独群では8.8%に対して、要精検率がマンモグラフィ+超音波群では12.6%に増加したことです。

この結果から、40歳代で多いとされる高濃度乳房に対するマンモグラフィ+超音波検診は、非常に有効なものと考えられ、今後生存率に両群間で差が出るかどうかが、興味のあるところです。現在追跡調査行い、死亡率減少効果あるかどうかを検討されています。

米国でのエコーの追加効果は1.0%程度でしたが、日本ではおよそ1.7%ありました。この差は米国の人の乳房が大きいのでエコー検査で癌の発見が困難なことと、エコー検査は技術による差が大きく、論文には、米国での今回の臨床試験で乳がん検診に不慣れな技師さんも参加していたと記載されています。現在米国では州の法律でマンモグラフィの乳腺濃度を受診者に知らせる必要があることに全米の大半の州で決まっています。これを受けて日本乳癌検診学会で、2017年3月に対策型検診(市町村の検診)では乳房の構成(乳腺濃度)を通知することは時期尚早であるとしています。当院では、マンモグラフィ検診のみを受診した受診者で、高濃度乳房の受診者にはエコー検査を追加で受けてくださいとのお知らせを受診者に通知しています。皆さんもぜひ検診を受ける際には、ご自身の乳腺濃度についても関心を持って頂きたいと思います。ぜひ皆さん乳がん検診を受けてください。当院では野田の本院、梅田イーマの分院、学園前の分院すべてで乳がん検診を受けて頂くことが可能です。梅田イーマが比較的空いているのでお待たせすることが少ないと思います。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医