2025年10月ドイツのベルリンで欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が開催されました 後編

今月のブログも2025年10月に開催されましたヨーロッパ臨床腫瘍学会の発表より、10月投稿分に引き続きエンハーツの話題です。

欧州臨床腫瘍学会ESMO2025は2025年10月にドイツ・ベルリンで開催され、約3万7,000名を超える参加者、約2900演題の発表があり、乳がんの分野でも現在の標準治療を大きく変える可能性のある複数の試験結果が発表されました。
乳がん治療はこの20年で大きく進化しており、その中でもHER2陽性乳がんは、薬剤の開発によって生存率・再発抑制の改善が続いています。今回の報告は、現在の標準治療を変える可能性がある発表がありました。

DESTINY-Breast11試験とは?

HER2陽性の早期乳がん の患者さんを対象にした大規模な国際臨床試験です。
手術の前に行う「術前薬物療法」を、より効果的で安全なものにできるかどうかを調べています。

試験では、
・エンハーツ(エンハーツ)を使用する新しいレジメン(エンハーツ→THP)(321例)
・これまで標準とされてきたレジメン(アントラサイクリン→THP)(320例)
の2つが比較されました。
THPとは、パクリタキセル+トラスツズマブ(ハーセプチン)+ペルツズマブ の3剤治療です。

新しい治療のほうが腫瘍縮小効果が高いという結果

今回の試験結果では、新しい治療法(エンハーツ→THP)のほうが、手術時にがんが完全に消えている状態=pCR(病理学的完全奏効) の割合がより高いことが明らかになりました。

エンハーツ→THP群:67.3%
従来レジメン:56.3%
約11%の改善で、統計学的にも臨床的にも意味のある差です。

Her-2陽性の乳がんではpCRは「再発リスクが下がりやすい指標」として知られており、より高いpCRが得られる治療は、大きなメリットがあります。

副作用が少ない点も重要なポイント

アントラサイクリン系抗がん剤は、心臓に負担をかける副作用が問題になることがあります。そのため、海外では「より安全な治療」に向けてアントラサイクリンを使わない流れが進んでいます。

今回の試験では、
・重い副作用の発生率
エンハーツ→THP:37.5%
従来レジメン:55.8%

・心臓の副作用
新しい治療の方が明らかに少ない

エンハーツで心配される「肺の副作用(間質性肺疾患)」も低頻度と、副作用の面でも新しい治療法が優れていることが示されました。
治療効果が高く、副作用が少ないという点は、患者さんにとって非常に大きな価値があります。

今後、日本での導入が期待される治療法

DESTINY-Breast11試験の結果を受け、手術前からエンハーツを使うかどうか」という議論が世界中で進んでいます。
日本でも、早ければ来年度中に保険適用が広がる可能性があり、今後の治療選択肢として注目されています。現在、日本では「手術後に病変が残った場合のT-DM1(カドサイラ)」が標準治療として定着していますが、術前からエンハーツを使うのか長期成績を待つべきかなど、専門家の間でも議論が深まっています。

まとめ

新しい術前治療(エンハーツ→THP)は、従来より高い治療効果を示した
副作用が少なく、特に心臓への負担が減る可能性がある
早期乳がんの治療が大きく変わる可能性がある重要な試験
日本でも今後導入される可能性が高い

HER2陽性乳がんの治療は急速に進歩しており、今回の試験結果は、患者さんにとって「より安全で効果的な治療」の選択肢が広がるという、大きな希望につながります。
当院でも最新のエビデンスをもとに、患者さん一人ひとりに最適な治療をご提案できるよう努めてまいります。
ご不明な点やご相談があれば、いつでもお気軽にお声がけください。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医