エンハーツの適応拡大について

2022年7月の院長ブログで、Her-2(ハーツー)陽性乳癌の治療の進歩と言うタイトルでブログを書いています。ハーセプチンに始まり、いろんな抗Her-2薬について書いています。また2022年11月のブログでは、エンハーツがHer-2低発現の、ホルモンレセプター陽性の乳癌患者さんに効果があることを書いています。抗Her-2薬の中では日本国内で使用可能な最も新しい薬剤がエンハーツです。エンハーツは新しい抗Her-2薬で抗体薬物複合体と呼ばれる薬です。日本では2020年5月から使用できるようになりました。これは日本の製薬会社である第一三共が開発した薬剤で、仕組みはカドサイラに似ていますが、トラスツズマブ一つの分子に対して、抗癌剤(トポイソメラーゼⅠの阻害剤)平均8分子がリンカーと呼ばれるつなぎ手で付着しています。同じような薬の構造でカドサイラがありますが、トランスツズマブ1分子に対して平均3.5個のエムタンシンと呼ばれる抗癌剤が付着しています。

エンハーツは以前Her-2陽性乳癌の患者さんの第3次治療薬として承認されていました。Her-2陽性乳癌の患者さんが再発すると、ハーセプチン+パージェタ+タキサン系の薬剤を最初に投与し、2次治療としてはカドサイラ、その次の治療薬としてエンハーツが使用可能となりました。

第一三共株式会社は2022年11月24日「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果適応拡大が認められたと発表しました。これはHER2 陽性の再発・転移性乳がん患者への二次治療を対象としたグローバル第 3 相臨床試験(DESTINY-Breast03)の結果に基づくものです。このことによりHER2陽性の手術不能又は再発乳がんの二次治療における新たな選択肢となりました。

2022年6月第一三共株式会社は、エンハーツについて、HER2低発現の乳がんに対する適応拡大申請を日本国内で行っていましたが、2023年2月27日、厚労省の薬食審医薬品第二会にて、エンハーツの「化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳がん」に関する適応拡大が承認了承されました。これは米食品医薬品局(FDA)が2022年8月5日に、EUの一部でも2023年1月26日にエンハーツがHER2低発現の乳癌に適応拡大されたことに引き続く事です。

日本国内において、乳がんは女性で最も多いがん腫であり、2020年の患者数は約9万人と報告されています。HER2はがん細胞の表面に発現するタンパク質であり、乳がんのほかに胃がんや大腸がん、肺がんなどでも見られます。乳がん患者の約半数はHER2の発現量の少ない(HER2低発現)と言われていますが、今までHER2低発現乳がんに対する抗体薬は存在しませんでした。

今回の承認は、グローバル第3相DESTINY-Breast04試験(NCT03734029)の結果に基づくものです。同試験は、化学療法による前治療を受けたHER2低発現の患者(N=557人)に対してエンハーツを投与した患者群(373人)の有効性と安全性を主治医選択の化学療法を受けた患者群(184人)と比較検証したランダム化試験です。試験の結果、ホルモン受容体(HR)陽性患者群、全患者群のいずれにおいても無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の改善を認められました。このことによりHER2低発現の乳がん治療における新たな治療の選択肢が増え、エンハーツはHer-2低発現の患者さんの治療を一変させる治療薬と考えられます。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医