乳癌治療におけるコンパニオン診断について

今月のテーマは乳癌治療におけるコンパニオン診断についてお話しをします。コンパニオン診断という言葉は聞き慣れない言葉だと思いますので簡単に説明させて頂きます。

乳癌治療におけるコンパニオン診断とは、患者さんの乳がん細胞に存在する特定の遺伝子やタンパク質の状態を検査し、治療効果や予後を予測するための検査のことです。それぞれの患者さんのがん細胞の特性に合った治療法を選択するために重要な検査です。これらのコンパニオン診断は、患者さんに最適な治療法を提供するために非常に重要です。適切な診断と治療法の選択は、患者さんの生存率と生活の質を改善するのに役立ちます。代表的なコンパニオン診断について以下に説明します。

 

・Her-2タンパクまたは遺伝子 対症薬:ハーセプチン、パージェタ、カドサイラ、タイケルブ、エンハーツ

全乳がんのおよそ15%程度にHer-2陽性の乳がんが含まれています。針生検や手術標本でHer-2タンパクの発現を見て、3+ならHer-2陽性と診断します。2+の場合には遺伝子検査を行い遺伝子検査で陽性なら対症薬が使用できます。しかしタイケルブやエンハーツのように再発治療でしか使用できない薬剤もあります。

・BRCA 対症薬:リムパーザ

BRCAの遺伝子検査は、乳がんや卵巣がんに関連する遺伝子であるBRCA1/2の変異を検出する検査です。この検査は、BRCA遺伝子変異陽性の患者さんに、PARP阻害剤による治療の適応があるかどうかを判断するために使用されます。PARP阻害剤は、がん細胞がもともと持つDNA修復能力を阻害することで、がん細胞の増殖を抑制する作用があります。

・SP142抗体 対症薬:テセントリク  22C3抗体 対症薬:キイトルーダ

SP142抗体や22C3抗体は、乳がん患者さんにおける免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)およびペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の適応判定に使用される検査抗体です。これらの検査は、患者さんのがん細胞に存在するPD-L1というタンパク質の量を測定し、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測するために使用されます。

・Her-2低発現 エンハーツ適応拡大のためのコンパニオン診断

エンハーツ適応拡大のコンパニオン診断は、再発乳癌で化学療法を施行後の患者さんでHer-2低発現が確認された患者さんに対してエンハーツが2023年1月から適応拡大しました。この際にHer-2低発現とはHer-2が1+、またはHer-2が2+かつ遺伝子検査で陰性の患者さんです。このHer-2の発現を見る検査はベンタナultraViewパスウェーHer2(4B5)と言う検査法しか認められていません。幸い当院では以前からこの試薬を使用していたので、検査態勢には影響はありません。ただしHer-2低発現の患者さんにエンハーツを使用する前に、再度この検査を実施することが保険適応の要件になっていることに注意が必要です。

 

以上にように乳がんのいろんなタイプに応じて治療薬を選択することが患者さんの予後の改善や治療成績の向上に重要な検査です。今回は難しい内容もありましたが、皆さんも自分の乳がんのタイプ等を知っておいてどのような治療薬が選択できるかを知っておくことも重要です。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医